2024.3.1
阪本トクロウ vol.1 “まなざし”
*こちらは2020年8月に掲載した記事です
日常のなにげない風景を独自の視点で捉え描く、日本画家 阪本トクロウ。
葡萄畑、桃畑に囲まれた山梨県のアトリエへ。
阪本トクロウ絵画の特徴である独特の「間」。
空間が広がる画面は、「情報でいっぱいになった頭をからっぽに出来る」
「物語が自在に生まれてくる」と多くの人が語る。
“中空”=“からっぽになれる状態”
「僕が空間として表現したいのは “中空” = 見ている人が “空っぽになれる状態” です。画面の中に大きな空間を感じてもらえるようにしたり、反対に画面全体を覆ってしまって、目が彷徨うようにしたり。モチーフ自体を利用して、画面の外側に視線が行ったり、また中に入ったりという、観る人の視線の動きも考えながら空間を作っています」
視点や視線そのものが主題
「見えたもの、出会ったものをそのまま抜き出して描くだけなんですが、
それ故に“自分の視点”が現れる。自分の表現を前面に出すと言うよりも、
“視点”や“視線”そのものを純粋に抜き出すことが絵の主題です」
自作をカテゴライズすると…?
■真ん中に何も無い”中空の構図”
全国どこにでもあるありふれた風景、既視感のある風景
「たとえば、道路や工事中の風景、田んぼやロードサイドの看板を描いた作品などです」
■“抽象模様を全面に置く構図”
模様で画面を覆ってしまう”自然の抽象” “都市の抽象”
「自然の中から見つけてきた抽象的な模様や、都市の中にある抽象的な模様。自分が作りだすのではなく自然がつくりだした模様や形を見つけるのが楽しい。『地図』や『富士』は“自然が作り出した形”。『夜景』も『横断歩道』も“都市が作り出した模様”」
※「地図」は飛行機の中から地上に見えた湿地帯の残雪。雪の模様が面白くて描いた作品。
■“日の丸の構図”
ど真ん中にひとつ日本の風景
「真ん中に対象を置く、いわゆる日の丸の構図で、”構図を作らない”という画面を目指したものです。少し対象と離れたところから“眺める”と言う感じです。距離感を描きたい。桜や遊具がそのカテゴリーです」
「ものすごく大きな桜を描いたのですが、とても小さな桜に見えてしまったり…ということがあります(笑)」
心がけていること
「全部を詰め込めば詰め込むほど、何を言いたいのか分からなくなってくるので、“この作品はこれだけ”、“ひとつだけ”ということを心がけています」
「ある作品で排除してしまったものが別の作品でメインになるということもあって面白いんです。でも、描いていると欲が出てしまってどうしても詰め込んでしまう、ということは人間なので度々あります。そういう場合も別の面白さが出てきたり、今までに無い作品が出来たり。出来るだけストレートな表現を心がけています」
4つの質問
Q.2006年当時、とても画面をフラットに、筆あとが残らないように描いておられて、その理由をお尋ねしたら、「画家の思いや息遣いが画面に溢れすぎてしまうと見ている人にとって失礼だと思うんです」と仰られていたのを印象深く覚えています。
2020年の今、どのようにお考えですか?
A.全く筆あとを残さないことも少し残すことも、それぞれ表現として行ってきました。というのは、絵画の面白さのひとつに「画家の手の痕跡でいかに複雑な奥行きを出すか」ということがあると思うからです。最近は筆触による奥行き、いわゆるノイズのような効果によって、描かれた対象がより自然な状態に感じられるようになってきたので、あえてムラを作ったりする画面に挑戦しています。
Q.どのような時に絵の構想は浮かびますか。
A.絵の構想が浮かぶときというのはいろいろです。起きている間は大抵どこかの頭の片隅に絵のことを考えているようにしているので、風景を見ているときに思い浮かぶこともあれば、描いているときに次の作品の構想が浮かぶということもあります。自分が撮った写真を眺めているときに、思い浮かんだりすることもあります。本を読んでいて言葉からということもあったりします。テーマやコンセプトからということもあります。いろいろな作り方、発想の仕方を総動員しながら、何とか一点一点つくっています。基本的には、作品を制作することが、次の作品につながる。つくり続けているとつくられる。あるとき2週間くらい描かない状態が続いたら、そのまま1ヶ月描かなかった、ということもありました。描いていると動き出す、どんどん描ける、ということはあります。
Q.近年描かれている「富士」や「桜」について教えて下さい。
A.「富士」は富士山の霊性、オーラみたいなものを描こうとはしていません。ヴィジュアルの模様だけを抜き出して描いているのがポイントです。
モチーフ的には電柱、鉄塔、雲など他の風景と全く等距離で描きたい、そういう思いがあってモチーフによってどちらが素晴らしいとか、どちらが下だとかはなく、同じように素晴らしいという価値観で見て行きたい。だから逆に、同じ距離感というのを表すために富士山を描きはじめたというのがあります。模様的なもの、富士山の残雪の作り出した模様を、自分が発見者となって見つけ出す。毎年同じような形になるので、観ている人の記憶で富士山とすぐに分かってもらえるようなものを、バランスを考えながら制作しました。
「桜」と「富士山」は、ものすごい昔から現代までずっと見続けられてきた、描かれ続けてきたモチーフでもあるので、日本人の多くが共通したイメージを持つという面白さがある。いろいろな画家の人たちが描き続けてきたなかで、自分も挑戦しがいのあるモチーフ。また、モチーフそのものとしても面白くて描いています。
Q.「パララックス」のシリーズについて教えて下さい。
A.テーマとコンセプトが最初にある作品です。「飛沫だけで描く」ということがメインで、「画面に触れずに均一につくる」ということを意図して制作した作品です。画面を下に置いて、絵の具を、ざるや網を使って弾いた飛沫だけで全部作って、描かない、絵に触れない。テーマは人それぞれ見え方が違うということ。「パララックス」は「視差」という意味です。ここに描かれた絵具の飛沫のどの色がより明るく見えるかも、この絵が何に見えるかも人によって違うと思います。
阪本トクロウ 作品 01〜08
阪本トクロウ作品01
水面
技法 アクリル、岩絵具/高知麻紙
制作年 2019年
作品サイズ P30(65.2cm×91cm)
額寸 現状額装未
備考 印、サイン有
SOLD
【額装について】
当社推奨額装にて制作致します。
額およびマットの色は、お選びいただけます。
推奨額装以外でご希望の場合、別途お見積にて制作致します。お気軽にご相談下さい。
「水面のゆらいでいるけれどもちょっと奥行きのある状態と、画面上部のクリアーな部分とを対比して描きたいと思った作品。
水面表現はいろいろ描いていますが、この作品は木の部分に岩絵の具の緑青などを流して描いた珍しいタイプです」
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作品は、ギャラリー桜の木銀座店、または軽井沢店にてご覧いただけます。