中西 和  vol.4 “春” 

2023.4.5

中西 和 vol.4 "春"

*こちらは2021年3月に掲載した記事です

季節がめぐり、愛らしい花や鳥の声が春の訪れを告げる鎌倉のアトリエ。
第4回は春をテーマにお伺いしました。

 

「猫柳図」29×17cm 2021年

 

 

 

「神奈備の春」

「生まれ育った奈良の地は、冬から春先にかけての枯草がとても美しいのです。その枯草のなかに、緑の草が点々と見えはじめ、遠くの林が多彩な芽吹きの重なりでけぶるようになる早春は、身も心も幸せな気分で満たされました。

“洗い出し”と呼んで頂いている技法や絵の世界も、私一人で創ったものでなく、子供の頃眼にした風光や、多くの人々との交わりの中で、かもされてきたもののように思えてなりません」

中西 和

 

アンソロジー   
「詞華集」・春

「詩を読んで、しみじみ感じるなぁと心惹かれるのは、イメージが絵のように浮かんできやすいもの。不思議なのは、気分と情景だけが残って、言葉は残らない。そういうものをただ描いてみたい」と思いました。

 

吉野山
去年のしをりの道かへて
まだ見ぬかたの
花をたづねむ
         西行

「桜狩」

「多くの桜の名所は、公園や大きな道、あるいは並木道になっているけれど、吉野の桜は非常に広い領域に植えられていて、その中に道がある。だから、西行の歌は、本当にうまく歌っているなと。こういう情景かなと思って描きました」

 

 

遅き日の
つもりて遠き
昔かな
     与謝蕪村

「遅日」

「以前は、飛鳥や法隆寺の辺りは全部ピンクの絨毯になって、その中に集落や寺や塔があるという風景が多かった。今は少なくなっているのが残念ですが、レンゲ畑はとっても気持ちの良いものでしたね。

遅き日というのは、日が長くなってきて、遠い日の様々なことが思い浮かばれる、そんな気分で春の中にいるんじゃないかな。蕪村の句はそういう気分をうまく引き出していて好きです」

 

※「遅日」は、明治書院 高等学校国語教科書「新 精選 国語総合 古典編」の表紙に、他に4点が漢文編、古文編、現代文編、現代文Bの表紙になりました。

 

 

 

唯一の物

「独活図」

「独活の絵は、何度か“なまめかしい”といわれたことがあります。生命ってなまめかしいんだよね、きっと。それが際立ってなまめかしいのと、そうでない場合があるのだけれど、生命というのは全部そういうものだと思う。物の形ってみんな生命の流れ方ですね。独活っていうのはどういうわけだか、皆にそう思わせる力があるみたい」

「確かにお百姓さんが努力して美味しくすることはできるけれども、元がないとできないわけでしょ。独活があったということ、トマトがあるということ、その元は我々は何も作っていないのだろうという気がしている。物があるということ自体が尊いのだと。

日常茶飯、目にしたり食したりしているものなのだけれども、時折ちょっと、その前に立ち止まりたい時がある。そういう時に描くのだと思う。

独活は、唯一のものだというものを感じさせてくれやすいもので、他のものも全部唯一のものだけれど、人間にとっては感じやすいもので、目を開かせてもらっているという感じがします」

 

 

構図

「昆布図」

「描きたいものを画面の下部に置くと日常的な在り様にみえる。それは悪い事じゃなくて、日常目にするときはその様に見ていることが多い。それを上に持って行くと、ただ日常的に在る物でなくて、そのものが持つ存在そのものの何かを感じやすいのです。

物そのものに向き合いたいと思い、画面の上の方にぴゅーっと1本線を描いて、この位置に描こうと思った時、ああこれだなと。この位置でなければ出ない何かがあるなと。それが一番自分が持っている気分を出しやすい。

在るかの様に描くということではなくて、存在するという意味を描くという点では、この位置が一番ぴったりきます」

「菜(アスパラガス)」

 

 

 

 

2つの質問

Q.身近な食材を描くことについてお聞かせください。

「洋梨図」

A.食材をモチーフにしようと考えたことはない。でも、一番多くの人にとって愛らしい形をしているのではないかと思う。たとえば、茗荷とかくわい、洋梨とか。端的に愛らしいというか、生命感を感じるというようなもの。品種改良で、こうしたら人に喜ばれるとか、人に好まれるようにしているのも良いのだけれど、たぶん、自然に近い状態で育てる方が生命力がある感じがする。僕にとって一番目について面白い、描いてみようと思うのは、そういうものです。

Q.描いた食材は、自身で料理して美味しくいただくそうですが、料理が好きになったきっかけは ありますか。

A.大学生の時、下宿先で何人もの学生との共同生活をしたとき、持ち回りで料理を作ることになった。それまで料理をしたことがなくて困っていたところ、週刊誌の付録か何かの料理カードを見て作った料理が大好評で、「あいつは料理が上手い」ということになり、他の人も食べに来るようになったのがきっかけ。それ以来です。料理は面白いものだと。

 

 

 

 

 

 中西和 作品 01〜07

1_作品
2_額入りイメージ
4_アップ1
5_アップ2
3_展示の様子
1_作品
2_額入りイメージ
4_アップ1
5_アップ2
3_展示の様子

中西和 作品01
猫柳図

技法     洗い出し
制作年    2021年
作品サイズ  29cm×17cm
額寸     現状額なし
備考     落款、ともシール有
SOLD

早春の澄明な空気の中、やわらかい光を受け、ふわふわとした花穂が愛らしい。

 

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作品は、ギャラリー桜の木銀座店、または軽井沢店にてご覧いただけます。

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