2021.1.15
三代 叶 松谷 vol.2 "湯碗"
*こちらは2021年1月に掲載した記事です
京焼を代表する名窯の一つ松谷(しょうこく)窯。
伝統を受け継ぎながら、高い技術と柔軟な発想で、常に時代に即した器を作り続けてきた三代叶松谷。
第二回は、時代とともに変化する器の歴史について伺いながら、現代の食卓に合う器として当代が作る「湯碗」についてお聞きしました。
「湯碗十二か月 一月~十二月」
磁器
音羽山麓 陶匠 松谷窯
開窯100年を超える松谷窯。窯の場所近くが「小松谷」と呼ばれることから名付けられた。
代々続く京焼の名窯のなかでも、佳き使い手たちに長く愛され、京料理の粋を支える器を「現代でもつくることができる」と言われる、数少ない窯のひとつである。
今年作陶50年、襲名から20周年を迎えた三代叶松谷。卓抜した技術に裏打ちされた松谷窯の仕事と、叶道夫として日展を牽引する作家活動により、京都の陶芸界からも尊敬を集める存在。
工房の一画
工房には、当代が今まで作ってきた作品と、初代と先代の作品群があり、代々の特徴や意匠、色彩、受け継がれてきた窯の歴史を見ることができる。
器の大きさの変化
「焼き物は時代とともに変化すると言いますが、一番分かりやすいのは蓋物だと思います。
大きいものから二つめくらいまでが大体戦前の大きさです。三つめからは戦後、そして一番小さいものが、最近のものです。
昔は料理の種類が少なくて、一つのもので沢山食べてお腹を満たしてもらう、そのために大きかった。戦前は懐石の料理も七品くらい、でも最近は13とか14品出てくるので、だんだん小さくなってくる。この蓋物は用途としては煮物ですね。中に入る量が少なくなってきています。昔で言うと、一番小さい器が一番大きいどんぶりの時代のぜんざいやスイーツ用として使われていました。最近は小さい器がそのままメインの飯碗として使われています」
十二か月の湯碗
「ここに並んでいるのが十二か月の湯碗という形です。
なぜこういうものを考えたかといいますと、湯吞みだともう少し深いですね。そうすると湯吞み限定でしか使えない。高さをもう少し低くして、この湯碗サイズにすることで、お茶、コーヒーはもちろん、そのまま小さな小鉢としても使っていただける、そういう多様性があります。
最近考えているのは、デザートやフルーツ入れにも使っていただけるのではないか、ということ。外で食べるときに氷、フラッペが山盛りで出てくるんですね、全部食べようと思ったらしんどいんです。これにちょっとだけ、本当の一口二口、それだけで、若い人たちは分からないけれど、お年を召した人は満足ですね。あとはお求め頂いた方がこんなふうに使った、というのを聞くのもいいかな、と思います。そういうことで、次の新しいことが出来てきますね」
「女の人でもお年寄りでも安心して持って頂きやすいように小ぶりにつくっています。形も段をつけてみたり、削ってみたり、そうすることによって手がひっかかり、滑り落ちにくくなります」
揃え方いろいろ
「形が6種類あって月毎の絵替わりです。形で集めても良いし、お誕生日月で組み合わせても良い。あるお客さんは、結婚のお祝いとして お二人のお誕生月をセットにして贈られました。
今までは和食のセットというと一種類で五客というのが碗の数でした。洋は六客ですけれど。最近は核家族などで人数が少なくなってきたということもあり、家の中でいろんな形で楽しんでもらうという事で作ったのがこの湯碗です」
十二か月の絵替わり
一月 乾山意松画
松飾りや、松の内の言葉があるように、正月に松はかかせないもの。窯名にもあり、「扱いをいろいろに変えて作ることが多い」
二月 染付地駄美梅*1
梅と牛蒡が交互に配された柄。梅が愛らしい。
*1 駄美=濃(だみ) 。染付の輪郭線の中をむらなく塗りつぶすこと。下絵付けの技法
三月 赤絵七宝
七宝文様の中が菱型なので、お雛様の菱飾りをイメージして。七宝繋ぎは、円形が無限につながっていることから、円満、調和などを表す吉祥文様。
四月 赤地金襴手桜
初代から伝わる赤に、金泥で描かれた桜が華やかな金襴手の湯碗。
五月 菖蒲
端午の節句にちなんで。
六月 捻祥瑞意浅黄彩
「昔からある祥瑞の模様にブルーの色を付けて雨を思ってもらう」趣向。
七月 豆彩笹*2
七夕の笹にちなんで。
*2 豆色の絵具が特に美しいことから豆彩(とうさい)と呼ばれる。
八月 祥瑞意削黄彩
「黄色でかんかん照りの夏を思ってもらう」趣向。
九月 染付菊
菊の節句ともいう重陽の節句。長寿を願い、祝う。内側まで全部菊が描かれている。
十月 染付幡龍赤
幟(のぼり)に描かれている龍。収穫のお祝いや村祭りではたくさんの幟が立てられる。
十一月 染付四君子
四君子(竹梅菊蘭)の模様で、季節をあまり問わずに使ってもらえるように。
十二月 赤絵トナカイ
クリスマスを思わせるトナカイは、和の器に洋の柄を描いたもの。
使いやすい、そして美しい器
茶碗蒸しの器の“条件”
「”片手で持ち運べる“のが、茶碗蒸しの器の条件。昔は受け皿がなかったので、熱い器も片手でスマートにサービスできるように作られています。料理屋さんでは6~7分目くらいしか入っていないので、熱くない部分を持てるようにしてあげた。蓋を手前に引っ張りながら胴を向こうに押して持ちます」
「うちの場合は高台に細工がしてあって、洗うときに指の引っ掛かりがあるようにしているので、滑り落ちにくい。それで、叶の食器は薄くて割れないといわれる。最近そういうことを知っていて作っている人はとても少ないです。このあいだも、東京の吉兆さんが『うちの店で使うような食器を作るのは叶さんの所しかあらへん』と」
叶松谷の赤
金襴手の作品にも使われている赤は、独特の深みを感じる。赤の秘密を尋ねると、「鉄ですから赤は。秘密はないです。ただ、鉄はものすごく幅が広くて黒とか茶色、こういう赤い色も出ます。鉄の含有量によって変化が出る。昔から京都の家の赤はそれぞれ家によって違います。この赤は初代からの赤です。
金襴手は、金箔を貼って模様を軋(きし)り取ります。それで下の赤が出てきて、焼くと線が出てくる。ここまでに、素焼きして本焼きして、赤を二回焼いて、最後に金を焼いて五回焼きます」
「昔は金箔を漆で塗って焼き物に付けていた。それだと50年もすると漆と焼き物が剥がれてしまうので、金箔も一緒に取れてしまう。初代が考えた焼成法は、金箔を焼き付ける方法で、100年以上経っても大丈夫です。こちらの器は100年程前の初代のもの。100年経つと赤自体もさびてくる、金箔も沈んできますが、箔は残っています」
窯出し
この日は窯出しの日。何段にも重ねられた石の板が取り出される度に、碗、皿、鉢などが姿を見せる。御祝いの品、記念の品の依頼も多いという。窯から出たばかりの器はまだほのかに温かい。窯に沢山入れ過ぎてもいけない。「窯の中に、ある程度火の回りが良くなるように計算しながらつめています」
叶 松谷 作品 Ⓐ~Ⓒ, 01〜08
叶松谷 作品 Ⓐ
湯碗 十二か月
技法 磁器
作品サイズ Φ7cm前後×高さ7cm前後
備考 それぞれに刻印または銘あり
価格 ¥25.000(税込¥27.500)~ ¥41.000(税込¥45.100)
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作品は、ギャラリー桜の木銀座店、または軽井沢店にてご覧いただけます。