2021.1.29
中西 和 vol.3 “冬”
*こちらは2021年1月に掲載した記事です
今にも雪が降りそうな寒い日の鎌倉。
水仙、椿、ミツマタ、千両の咲くお庭。火鉢が温かい冬のアトリエをお訪ねしました。
「確か1月3日だったかな。筑波山の山頂で『こんな寒い日に馬鹿だなぁ』と思いながらも風に吹かれていることがなかなかの快感でね。寒さに耐えているだけでも『オレは頑張っているぞ』という充実感みたいな(笑) 」
~ある日のお正月の取材より~
冬の訪れを感じるのはまずは”寒い”と感じた時からかなぁ。あとはここは土が多いから霜が降りて足元にザクときた時だね。
中西 和
黒(墨)の表現
①土台作り
「私の制作は、すべて最初は墨で行います。それを乾燥後、洗い落として残ったものが作品の土台となります。
私は西洋画から入って、今も概ねその方法で描いているので、墨を使うといっても水墨画をやる感覚ではないです。絵の具の黒を墨に代えたということ。絵の具の黒はどうも鈍重な気がしてならないからかな」
作品のテーマによって、5つの点が押せる筆(自作)や綿棒でポトポトと根気よく薄墨を重ねてふくみを出したり、刷毛を一気に走らせて強い画面作りをしたりする。
②透明感
「油彩画の黒には透明感がある。特にフランドル技法の絵では真っ白な地を一回作った上に、ワニスに黒を溶いて何度も何度も塗り重ねており、黒の色ガラスのような透明感がある。そのため光がいったん白の下地から反射してくるので、透かした光になる。それが明るい黒だなぁという魅力があった。自分なりに心に叶う黒を描いてみたいと考えたのかな。
墨を塗っていったん洗い落とし、朱を塗って、次に青を塗り、最後にまた墨をかけて、黒にしてあるけど、決して黒くない。かなりグレーぽいかな」
ニュアンスに富んだ深みのある黒となる。
コンポジション
「やわらかな愛らしいものも好きなんだけど、時折『胸張ってシャンとしなさい!』と、あくまで自分に言い聞かすように描いてみたくなる。ただそれだけです」
垂直的な構図は強い印象であり、モダンである。
次に描きたいモチーフは、以下三点とのこと。
①千住葱・・・藁縄で束ねられている佇まいがいい
②青森の大鰐温泉もやし
③かた豆腐・・・かたく作られ持ち運ぶ際は縄で結わえる
2つの質問
Q.絵の中に広がる空間についてお聞かせ下さい。
A.私が学んだ西洋画の方法では、空間はある場を設定し、そこに人物や物を配置し、その位置関係で表されているようです。その為には視点を定めることが必要で、制作する側だけでなく、見る人にもどこかで強いているようで、どことなくしんどいなぁという感じ。しかし、何一つ眼にとめるもののない澄んだ青空を眺めていても空間は鮮やかに感じられる。そんな気分を限られた画面の中に創ることができたらなぁと念じています。透視遠近法は西洋の都市で生まれたもので、日本の絵画(空気遠近法)のほうがより自由に感じられます。
描きたいように描き、見る人が見たいように見ればいい、いちいちそれぞれの位置関係を説明しないのがいい。この碗の奥行きがどこまで続いているか分からない、炭を描いているだけで何か空間が生じている。『これどこで燃えているの?』と言う人もいないでしょう?
Q.アンソロジー「詩華集」のテーマについてお聞かせ下さい。
A.詩を読んで、しみじみ感じるなぁと心惹かれるのは、イメージが絵のように浮かんできやすいもの。不思議なのは、気分と情景だけが残って、言葉は残らない。そういうものをただ描いてみたいと思っただけです。
淡雪の中にたちたる三千大千世界(みちおおち)又その中にあわ雪ぞ降る
良寛
※三千大千世界=宇宙(仏教用語)
降りしきる雪の中で空を見上げていると、とてつもなく大きな世界が、広がっていき、自分も大きくなった気分になるんだ。フワァと次から次へと舞ってくる雪の粒を最後までたどってみたいなどと思いながら眺めている感じ。
中西和 作品 01〜08
中西和作品01
水仙図
技法 洗い出し
制作年 2021年
作品サイズ 30cm×15cm
額寸 43cm×29cm×厚み4cm
備考 落款、ともシール有
SOLD
「外出自粛の折、取材もなかなか叶いません。自宅とアトリエの庭をウロウロしている私をなぐさめてくれたのは、白や黄の水仙でした。地面近くにしゃがみこんで眺めた姿です」
優しさの中に凛としたものを感じる作品。
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作品は、ギャラリー桜の木銀座店、または軽井沢店にてご覧いただけます。