2020.12.18
三代 叶 松谷 vol.1 “松の器”
*こちらは2020年12月に掲載した記事です
京焼を代表する名窯の一つ松谷(しょうこく)窯。
伝統を受け継ぎながら、高い技術と柔軟な発想で、常に時代に即した器を作り続けてきた三代叶松谷。
第一回は、伝統と現代の感性を結ぶ器の制作現場を訪ね、窯名にもあり代表的な意匠でもある「松」の器についてお伺いしました。
「染付松金彩鶴 カップ・ソーサー」
磁器 Φ16cm×高さ2.3cm
音羽山麓 陶匠 松谷窯
開窯100年を超える松谷窯。窯の場所近くが「小松谷」と呼ばれることから名付けられた。
代々続く京焼の名窯のなかでも、佳き使い手たちに長く愛され、京料理の粋を支える器を「現代でもつくることができる」と言われる、数少ない窯のひとつである。
今年作陶50年、襲名から20周年を迎えた三代叶松谷。卓抜した技術に裏打ちされた松谷窯の仕事と、叶道夫として日展を牽引する作家活動により、京都の陶芸界からも尊敬を集める存在。
工房の一画
工房には、当代が今まで作ってきた作品と、初代と先代の作品群があり、代々の特徴や意匠、色彩、受け継がれてきた窯の歴史を見ることができる。
松の器
窯の名前に松があるため、「絵柄としては松の扱いをいろいろ変えてやったものが多い」という。
向附(むこうづけ)に使える3種の松の器。
向附は、茶懐石の一人ずつの膳の中央より向こうに置かれ、お造りが盛られる器。食事の最後まで銘々の取り分け皿となる。向附の手前には飯碗と汁椀が置かれる。
家庭では、お正月のおせち料理から、季節問わずハレの日に、お客様を心からお(松)まちしていましたよ、という気持ちを表す器として。
描かれているのは「根引きの松」。平安時代の貴族たちが、一月最初の子の日に、野に出て根のついた小松を抜いた遊び「小松引き」に由来する。
根を張り成長するようにという願いが込められている。
京都では、今も正月の松飾りとして門口に飾る。正月にふさわしい吉祥の器。ろくろ成型によるもの。
湯碗は寄向(よせむこう)※1 にも使え、焼酎、日本酒、お茶、コーヒーまで楽しめる器。持ちやすい形に作られている。
※1 一同に揃いの器を出さずに、ひとりひとりに異なる器で向附を出すこと。
松を象った形に梅の絵柄。「映える」形。
使い手側がひねって、笹を添えると松竹梅。梅の図柄に梅のお菓子をのせるのも楽しい。
「松染付と鶴金襴手、そういう形で作りました。思い切って大胆に扱うから面白いのかなと思います。表はどちらでも」
絵柄の「鶴と松はつきもの、セットですね。落語にも鶴と松が出てくるのをご存知ですか?
松の枝に鶴が“つーーっ”と飛んできて、“る”っととまる、そういう話があるんです(笑)」
「この松は、染付のポットを作ってから考えました。濃み(だみ)※2の上に松の葉を描いたときに面白いなと思ったので、色絵でやる場合にはこんな風になるかなと思って緑の色に。何か一つしながら、他のことも考えています」
※2 素地に絵付けをする時に、太い濃筆に呉須を含ませて塗る技法
洋の器に和の柄は、近年手掛けているもの。
「昔の技術を持ちながら、今の時代に合うものを作っていく。これからの器は、洋の中に積極的に和が入っていくことが大事になる」と考える。
ろくろと型打ち成形
型打ちは、素地が厚いと型に押さえるときに力が必要になり、形や模様がずれてしまう。「素地をろくろで薄く挽いて、軽く押さえないと、中の形がとれない。ものすごく難しいです。ろくろが上手でないとできないということです」
型をろくろに乗せ安定させる。
ろくろで薄く挽いて、まだ柔らかさが残るくらいに乾かした素地を型にかぶせる。
型になじませるように押さえた後、濡れた布巾の上から型に添わせるように押さえ、形を写し取っていくが、この工程は一切力を入れず、あくまでも素地を型に添わせていく。
高台を削った後、さらに雌鹿の皮で形を整えていく。次第に型の輪郭がはっきりと表れてくる。
型からはずした後、高台をさらに削る。高台をこのように作るのは珍しくなり、今ではやる人も減ってきている。
Q&A
Q1.三代目の特徴はどのようなところでしょうか。
A.例えばこの四角い向附。昔は四角いものを四角く作るのが「上手な人」だった。機械が無いので真っ直ぐな線は作りにくいものだった。
最近はそういう真っ直ぐな四角いものは機械が作るようになった。
僕になってから、一旦四角いものを作ってから、まだ柔らかいうちに素地を動かします。そうするとふわっとやわらかい四角になるわけです。ふくらみがやわらかい感じに。やり過ぎはだめ。
そこを見極めて仕上げ(絵付け)をします。機械が出てきていろんなものを作るようになって、人の手で作るものも変わってきました」
色彩は、昔からの絵具を使っていますが、使い方ですね。微妙な色合いも好きなので、そういう感じになるように使っています。絵具の濃さ、塗る時の厚み、その厚みによって色が変わります。
Q2.若い頃から陶芸家の道を継ごうと思われていたのですか。
A.僕は考古学がしたくて、高校はずっとその方面の勉強をしていました。二年生の時、初代が亡くなる前に呼ばれて、『考古学の中に焼き物もあるで』と言われ、それからです。これはやらなきゃいけないかと。
でも、焼き物でも考古学を使ったりしています。お茶の道具で四角い水指を作った時。その当時奈良の方でキトラ古墳の壁画の発掘がありましてね。白虎・青龍・朱雀・玄武が全部描いてあった。それを水指の絵柄につけて、茶室が東に向いていたら東向きの『青龍』、南に向いたら『朱雀』というように、茶室の方向に合わせてどこが正面でも使って下さいというもの。それで蓋の裏には星をいっぱい描きました。
今30過ぎになる三番目の子が小学校6年生の時、『お父さん、ものすごく楽しそうに仕事しているな』と言ってくれた時には、この仕事をしていて良かったと思いました。
叶 松谷 作品 01〜08
叶松谷 作品01
古清水意松画 向附
技法 磁器
作品サイズ 18cm×9cm×高さ3.5cm
備考 刻印あり
価格 ¥20.000(税込価格¥22.000)
描かれているのは「根引きの松」。平安時代の貴族たちが、一月最初の子の日に、野に出て根のついた小松を抜いた遊びに由来する。
松は長寿の象徴。正月にふさわしい吉祥の器。ろくろ成型によるもの。
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作品は、ギャラリー桜の木銀座店、または軽井沢店にてご覧いただけます。
(*軽井沢店は2020年11月24日~2021年4月上旬まで冬季休廊中です)