林 美木子 vol.1 “扇” 前篇

2024.9.28

林 美木子 vol.1 “扇” 前篇

*こちらは2020年11月に掲載した記事です

平安の時代に宮中を彩った有職(ゆうそく)の美を、細部に至るまで自ら研究し、伝統を忠実に踏襲しながら現代に息づかせる有職彩色絵師・林美木子。
様々な有職の作品を作る中で、第1回は扇をテーマに、京都御所にほど近い生家にてお伺いしました。前篇は「飾り方」「楽しみ方」、後篇は「扇を描く」。

月次扇(つきなみおうぎ)
大和絵 「十一月 紅葉賀図」

 

 

いにしえのひとびとに触れる、有職の楽しみ

雅のかたち

平安のお姫様が遊んだ世界、雅のかたち、古来より伝わる行事や風俗を生き生きと描く林美木子。自らを画家ではなく職人と位置づけ、大和絵、有職彩色、貝覆、桐塑人形、御所張子など一人で手掛ける。名家伝来品の修復と有職研究を経て、時代時代の“約束事”を踏襲、本歌の意識を捉え補完する、有職再現における稀有な存在であり、伝統文化を楽しむ人々にとって心から頼りになる存在。

 

林美木子の扇

月次扇(つきなみおうぎ)
大和絵 「九月 白菊図」

林美木子の扇を見た人は、国内外問わず、皆その華やかさや“ほんもの”感、“美術品としての迫力”に感嘆する。檜板を1枚1枚磨くことから始まる檜扇は、古い扇を研究しながら30年程前から作り始めた。
「父(林駒夫)が桐塑人形の重要無形文化財保持者に選ばれた時、配りものの扇を作ったのが、紙の扇を作る初めやったと思う」
以後、舞扇や飾り扇を作るようになる。

 

扇のこと

一 扇は日本の発明品

扇は「あおぐ」が語源とされ、その原型は奈良時代にさかのぼる。文字を書く木簡を束ねたのが始まりと言われている。平安期には、木製の骨に紙を貼った扇「かわほり扇」が生まれ、儀礼や祭祀にかかせない道具になった。

 

二 扇の種類

「檜扇」

photo by Kimura Youichi

最も古い扇のかたち。素材は檜。儀礼や祭祀、顔隠しに用いられた。

 

「かわほり扇」


平安初期に生まれた、木製の骨に紙を貼った扇。
名前の由来は、紙貼りから転じたとも、当時は骨の片面だけ紙を貼ったので、裏返した時にこうもりが羽を広げた形に似ていたからともいわれる。

 

「流儀の扇」
茶道、香道、蹴鞠など。各流儀においては、礼をつくす所作もあわせて伝わっている。

 

「芸能の扇」

能、狂言、歌舞伎、舞踊など。能や歌舞伎で使われる中啓(ちゅうけい)は、中国の両面張りが逆輸入され宮中で主流となったもの。
* 折りたたんだ時、扇の先の方が啓(ひら)いているため中啓と呼ばれる。

 

三 扇の用途

“礼をつくす”“邪気を祓う”“扇ぐ・涼を呼ぶ”“位階をあらわす”“顔をかくす”“思いを伝える”“贈呈品を載せる”“飾る・もてなす”等用途は様々。コンパクトかつモビリティに優れた道具であり、美術品。

 

飾り方 いろいろ

“しつらいの達人”林駒夫に、扇をどのように飾ると良いかを学ぶ。

屏風の代わりに扇を立てる

月次扇(つきなみおうぎ)
大和絵 「三月 西王母図」
photo by Kimura Youichi

尾張徳川家に伝わる古い中啓の絵から図案を起こした扇。中国の伝説の女神西王母が、三千年に一度花が咲き実を結ぶという桃を持って天上から降りてこの世を言祝ぐ(能「西王母」)。桃の季節にちなんで屏風に見立て、節句を祝うしつらいに。所蔵の骨董の雛人形を並べて。

 

「すいはつ」に飾る

月次扇(つきなみおうぎ)
大和絵 「一月 蓬莱図」
photo by Kimura Youichi

「新年は神様のものなので骨は白木のものを使います」年迎えにふさわしい吉祥尽くしの扇。図案は能「翁」より。つま(扇の両端に入れる装飾)をなくし金箔だけの背景は、一層めでたく華やか。

 

扇立てに飾る

月次扇(つきなみおうぎ)
大和絵 「四月 醍醐図」

豊臣秀吉が京都醍醐寺で催した「醍醐の花見」にちなんだ絵柄。盛大な花見の宴の雰囲気が伝わってくるような華やかさ。

 

床の間に飾る

月次扇(つきなみおうぎ)
大和絵 「八月 夕顔図」
photo by Kimura Youichi

「暑い時期は、すいはつなどは使わずに重々しくならないように飾る」
骨には竹を使い涼しさを誘う。

 

扇の楽しみ-季(とき)を楽しむ、 ”読む”を楽しむ

干支を読む

干支 かわほり扇
大和絵 「丑」

丑と梅は、菅原道真の飛梅伝説などにまつわる取り合わせ。着物には、牛車の車輪が乾燥しないように水に漬けた平安時代の情景がモチーフの「片輪車模様」が描かれている。室町時代の十二類絵巻の宴会場面より図案を拝借、アレンジしている。

 

月次扇(つきなみおうぎ)

月毎に季節季節を迎える楽しみが詰まった、能・狂言・舞楽の世界や、洛中洛外図など、日本文化の多彩な魅力も併せて味わえる趣向になっている。12ヶ月揃えても、飾りかえも楽、収納も簡単・コンパクトで、毎月扇をきっかけに話題が提供できる作品。

 

柳を読む 

梅雨時の柳は「もう葉がだいぶ長くなって、その柳の葉の形で大体の季節が分かる。冬の柳は葉はなく枝に雪が積もっていて、秋の柳はちょっと葉の先が枯れて茶色くなっている。春は芽張り柳といって遠目で見ると点々に見える。それがお雛さんの頃の柳。葉の形で絵の季節が分かります」「松の影もそうで、夏場は濃い藍色で、段々やさしくなって、冬はあんまり影をつけないとか、描き方が決まっています」

 

季を楽しむ

端午 かわほり扇
大和絵 「菖蒲蓬図」
photo by Kimura Youichi

端午の節句のしつらい。菖蒲は尚武になぞらえ、蓬はその香気で邪気をはらうとされ、子供の元気な成長を願う。檜の太刀に胡粉仕上げ、美しい彩色の有職「菖蒲太刀」を合わせて。

 

月次扇(つきなみおうぎ)
大和絵 「七月 梶鞠図」
photo by Kimura Youichi

七夕に催される蹴鞠は、梶の枝に鞠をくくり牽牛織女の二星に手向けた。蹴鞠は王朝の貴公子たちの雅な遊び。
「御所張子 有職彩色 けまり」を合わせて。

 

月次扇(つきなみおうぎ)
大和絵 「九月 白菊図」
photo by Kimura Youichi

菊置上蛤香合を合わせて。長寿を願う重陽の節句の組み合わせ。

 

三月 檜扇 雛祭りのときにお雛様の代わりに。

photo by Kimura Youichi

十二単衣の女官が持つ檜扇「大翳」(おおかざし)。一枚ずつ磨き上げた胡粉地に描かれた松竹梅の吉祥図、紺丹紫緑の繧繝彩色(うんげんさいしき)で縁取った金銀の雲はお雛様が持つ扇と同じ絵柄。王朝文化の美意識が再現されている。京都迎賓館に収蔵されている檜扇は林美木子作。

 

❖ 林美木子の扇 後篇「扇を描く」に続く ❖

 

 林 美木子 作品 01〜09

2_飾った様子
3_アップ1
4_アップ2
5_アップ3
2_飾った様子
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5_アップ3

林 美木子作品01
月次扇 四月 醍醐図 

技法     大和絵
作品サイズ  51.5cm×36.5cm
備考     落款有
価格     ¥220.000(税込価格¥242.000)

豊臣秀吉が京都醍醐寺で催した「醍醐の花見」にちなんだ絵柄。盛大な花見の宴の雰囲気が伝わってくるような華やかさ。

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作品は、ギャラリー桜の木銀座店、または軽井沢店にてご覧いただけます。

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