田中 みぎわ

2020.6.15

自分の中の確固たるイメージと、墨が織りなす偶然性とを対話させていくことが、水墨を描く面白さだと感じています

去る5月19日(土)、街路の紫陽花が美しい五月晴れの午後、ギャラリー桜の木 銀座本店にて、田中みぎわ先生のアーティストトークを開催いたしました。個展の初日にもあたるこの日、田中みぎわ先生は、ご自身で撮られた風景写真、スケッチの画像などのスライドを用いながら、Ⅰ.墨で描くようになったきっかけ、Ⅱ.絵を描くようになったきっかけ、Ⅲ.月を描くようになったきっかけ、の3章仕立てでお話しをしてくださいました。
以下、当日のお話しのダイジェスト採録です。

Ⅰ. 石垣島の雲

 

今、私は墨と水で描いています。最初に、墨を使って描くようになったきっかけをお話しさせていただきます。

小さい頃からずっと自然が好きで山や木々など風景を描いていたのですが、学生時代に初めて雲を描いた時、「雲は人の心を映す」と強く感じ、以来、雲を追いかけるようになりました。広い空と美しい海に憧れて石垣島に行き、キャンプをしながら毎日スケッチをして過ごしているうちに、旅行ではなく、住んで、そこの空気を吸い、生活しながら描きたい、と思うようになりました。大学院を修了後、軽自動車に家財道具一切を詰め込んで船で石垣島に渡り、一年半の間でしたが、島に住んで生活をしながら絵を描いていました。

この石垣島での体験で得たことが二つありました。一つは、静寂です。陽が沈んだ後に風が止まって、静寂がおりてくる時間があり、その中にたゆたっていると自分の心の中の波も穏やかになる、そういった心の静寂、心が凪ぐ時間を得ることが出来たことです。夜明け、もしくは日没後、一日一度はそういった静かな時間を持つことで心の奥に潜っていく、そうするとその心の海の底に平安が拡がっていると感じることが出来ました。

もう一つは新月の闇の体験です。闇は怖いものではなく、とても暖かくやさしく私を包んでくれる。闇の中にいると心底落ち着くことを知りました。何か問題があると人は外に答えを求めがちですが、この闇と静寂により、自分の内にこそ答えはあるということに気づくことができました。

そういった日々の中、ある日、西陽を浴びて真っ赤に燃え上がる雲に出会いました。

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