泉田 之也

2014.3.4

見たことがないのに、どこか懐かしい 土の姿を産みだすひと

山を分け入り森林の中を下っていくと、パノラミックな海が眼前に開かれます。
まさに海のしぶきを受ける場所にその土はありました。見事な赤、黒、黄土の層。今日は赤い土を担いで帰ります。20kg担いで山の上り下りもあって、何度も往復して運ぶんですね…、と申し上げたら、そんなことは至極当たり前、といった風の泉田先生。「ここへ来るたび、心が洗われて、大好きな場所です」。
民藝運動のとき、柳宗悦はこのあたりの土地に根付く小久慈焼を高く評価しました。海に向かい入り組んだ山丘を道沿いから眺めると、色鮮やかな粘土層が見て取ることができます。「地滑りとか、崖崩れとか起きやすい場所って、実はいい粘土があったりするんですよ」。でもこのあたりの冬は厳しくて、粘土も凍るといいます。陶芸は北へ行くほど厳しいと言われるのはそういった条件の厳しさもあるのです。「ここに育ったので、この冬の重いような感覚を、なんとかして軽くしたいな、と思います」。12月の取材時ご案内いただいた秘密の海。太平洋に洗われる粘土壁は、多分に塩分を含んでいて、付近の陶芸作家でも泉田先生以外“使わない”、というか“使えない”そう。ちなみにNHK「あまちゃん」でも舞台になった場所は、写真の奥側の岬です。
北三陸に育った泉田之也先生。本質としての土をみつめ、土の可能性を最大限に引き出すひと。国内外でいま大変に話題を集めるアーティストです。二年前から画廊でご紹介を始め、初めての個展を銀座でこのたび開催いたしました。会場では、多くの方々がご来廊下さり、作品の不思議な面白さを楽しんでおられました。

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押しつぶさそうになるほどの緊張感が、心の中にある形のないものを形にする原動力になることが多いですね(笑)私の場合は、幸せ満杯な時よりも、ストレスがあるほど、エッジの効いたものが産まれてくる。我ながら無茶したな、と思うものほどいいものができた、という実感があります。

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首都圏をおおいに混乱させた大雪の初日(2/8)。泉田之也先生曰く「僕の初日は嵐とか雪とか震災とか多いんです、慣れてます(笑)」。足元の悪い中にもそれでもお運びくださった猛者のみなさまと、急きょ熱燗祭りを画廊にて開催いたしました。そのときのお客様からのQ&Aの様子をお伝えいたします。

Q. 先ほど先生のお茶碗(※取材時に掘った土で本個展のおもてなし用に作ってくださったもの)でお抹茶をいただいたら、飲み口の良さにびっくりしたんです。

A. 「使えない!」と見えて、実は「使える!」というのが個人的に好きなんですね…。昔からうつわを作ってるので、どうしたら飲みやすいか、わかるんです。別に特別なことではないですよ、うつわを創り続けてくるとわかること、としか。創っているときには、いかに使いにくそうに見せるか、が逆にテーマだったりします(笑)。

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泉田之也展 「1/2Gravity」
於 ギャラリー桜の木 銀座
2014年2月8日(土)~3月2日(日) 火祝休廊 午前11時~午後7時