田中 みぎわ

2020.6.15

自分の中の確固たるイメージと、墨が織りなす偶然性とを対話させていくことが、水墨を描く面白さだと感じています

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Ⅲ. 月と呼吸

 

今回、はじめて、月の絵をまとめて出品させていただきました。今まで描いていた絵との違いをお話しいたします。

これまでは、ドーサ(膠と明礬を混合し水に薄めたもの)を引いた紙に描いていました。紙に滲み止めをほどこした紙のことです。ドーサを引くことにより紙の表面に膜が出来て、水を落とすと下まで滲みません。ちょうど、水を引いた田んぼのようです。その上で墨を泳がせるようにして描いていました。それに対し、今新しく描いている紙は、漉いたまま何の加工も施していない、生のままの紙「生紙(きがみ)」です。

手前が滲み止めを施した紙、奥が生のままの紙です

そもそもは、紙の探索をはじめたことがきっかけです。描くときは、その瞬間のことに夢中になり、先のことは大抵何も考えられないのが普通でした。しかし描いていくうちに、様々なご縁をいただき、絵をお持ちいただいたり、美術館で展示していただいたり、少しずつ絵が自分の手許から離れていくようになりました。それならば、より長くそのままで変わらない保存性の優れた紙を探すのも、私の一つの仕事かなと思うようになったのです。

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