【展覧会によせて】
水の緩みを待ちこがれ、春の予感を噛み締める。私にとっては季節の移り変わりが見せる光景はいつもは奇跡です。
ねむけをさそう土の匂い、野から、地中から、春の予感にはちきれんばかりの歓喜と期待で低く脈打つのが聴こえる。
大地がその身体を揺るがすようにして生命の兆しを唄うのです。その毎日のわずかな兆候を感じることは、この世界に根ざし生きていることを実感する手がかりではないでしょうか。私にとって四季自然と絵の制作活動は救いであり、この世界に留まることの助けであり、それはこの世界がどんなに慈愛に満ちているかを知らしめてくれるのです。
そして毎日の夕暮れに立ち合いたいという思いから、私は山野へ出掛けていくのです。
ああ心の野原よ、汲み尽くすことの出来ない歓喜と悲哀、こども時代の憧憬よ。青草の芳香、まぶたに赤く映る残像よ。なぜこうもおまえが懐かしいのか。わたしの胸にある庭が呼び覚まされる。野が誘う、枝々が奏でる唄よ。ここを神の客間といわずしてなんというのだろう。